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【概要】オーストラリアキャンベラ・シドニー調査



オーストラリア キャンベラ・シドニー調査※報告書の抜粋
(中村 2009年10月27日-31日、本堂 10月24日-31日)



【目的】

 オーストラリアは近年、法廷における科学的議論のために、従来の対審構造による尋問形式とは異なる新しい訴訟手続きコンカレント・カンファレンス(concurrent conference)制度を導入した。本調査は、concurrent conference の実際と課題を、新しい制度設計の中心となってきたJudicial CommissionのSchumatt氏、NSW州最高裁McClellan判事、及び、この尋問制度を活用している弁護士等の実法律家などとの面談で明らかにすることを目的とした。同時に、科学者証人尋問に関する専門的研究者らとの面談により、新しい制度設計の背景にある科学者証人尋問一般の現状と課題に関する議論状況を把握することも目的とした。



【訪問箇所・内容の概略】

・Australian National University 法学部 Hugh Selby教授と面談(本堂)
 科学者証人を含む専門家証人制度の現状と課題について情報収集

・Environmental Defender’s Office訪問(以下、中村及び本堂)
 環境保護分野における公設法律事務所で法律家と科学者が常駐して協働している状況を視察

・The President of the NSW Branch of the Australia
 Ms. Jnana Gumbertと面談(所属事務所所長のMr. Tom Goudkamp同席)

・不法行為法分野における実務法律家からみた科学的証拠と専門家証人の現状と課題を聴取

・Judicial Commission訪問
 Mr. Ernie Schmatt(Chief Executive)
 司法制度について、立法府直属で調査分析をする独立機関。
 Concurrent Evidenceに関する普及啓発活動をNSW最高裁と協働

・NSW州最高裁判所訪問
 The Hon. Justice McClellanと面談。Concurrent Evidenceの歴史と現状について聴取

・The Law Society’s Litigation Law Committee訪問
 Mr. Raja Balachandran (Senior Legal Officer)

・Ms. Julie Robbと面談
 知財分野における法律家と専門家の協働の現状と課題を聴取。

・Land and Environmental Court訪問
 The Hon. Justice Biscoeと面談。
 Concurrent Evidenceの環境裁判所における状況を聴取するとともに実際の法廷を視察。



【調査によって得た知見】

 オーストラリアでは以前より科学者証人を含む expert witness(専門家証人)の活用に関する議論が継続的に行われており、この分野を専門とする研究者や専門の書籍も多い。そのような背景のもとconcurrent conference方式が導入されている。

 さて、旧来の対審構造下で、一人ずつ科学者証人を法廷に招く科学者証人尋問については、特に裁判所の立場から問題点が認識されていた。すなわち、一人ずつ証人を招き、原告側・被告側代理人弁護士から証人を尋問する形式では、審理に多大な時間が掛かること、真実の発見が難しいことなどである。特に、未解明な点が多い不確実性を含む科学的知見を扱う場合に、どこまでが科学的に明らかで、どこからが未解明であるのか、旧来の方式では裁判官が理解することが困難であった。

 このような問題を解決する目的で、concurrent conference方式が考案され、導入された。しかし、旧来の対審構造下での科学者証人尋問に慣れた弁護士や裁判官などからは、当初、戸惑いや反対が強かった。そのため、NSW州のJudicial Commissionでは、弁護士や裁判官などを対象にした、新しい尋問形式(concurrent conference)の手法やメリットを紹介する、教育用DVDビデオが作成された。

 現在では、このような努力の成果もあり、当初戸惑いや反対意見が多かった弁護士も含めて、この新方式は高く評価されるに至っており、NSW州だけではなく、オーストラリア全国の民事訴訟に広まっている。科学と法の協働の側面で特筆すべき点は、この方式が、科学者証人に大変高く評価されている点である。これは、旧来の証人尋問では、科学者はその科学的知見を、科学的合理性を保った形で証言することが容易でなかったからであり、加えて、科学者証人に対する個人攻撃的な、ハラスメント的尋問が代理人弁護士からなされることがしばしばだったからである。その結果、多くの科学者が、法廷に証人として立つことを忌避する状況に陥り、最新の科学的知見を法廷で活用することが難しくなっていた。本方式の導入により、多くの科学者が、抵抗なく法廷に立つことが出来るようになった点は、法の科学の協働の成功例として、大変興味深い。

 本調査で、NSW州最高裁判事であるMcClellan氏と有意義な意見交換を受け、本年2010年8月、本プロジェクトで開催予定のシンポジウムに、McClellan判事を招聘する予定である。

プロジェクト連絡先

 弁護士法人
 リブラ法律事務所
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 Tel.097-538-7720
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