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ファミコン世代が作る法律、使うはDSネイティブ


 2011年2月21日、福井県警が不正アクセス禁止法違反の非行事実で奈良県の小学4年の女子児童を補導したと報じられた。

 小学校4年生が不正アクセス禁止法?と驚かれたかもしれない。しかし、報道によれば、この少女は、チャットで知り合った中学生からIDとパスワードを聞き出してこの中学生の使っていたキャラクターを自分のものにしようとしたという。

 IT技術に子どもがなじむ速さと来たら、大人の比ではない。実際、私の子ども(10歳)を見ていても、PC操作を習得していく速度には舌を巻く。サイバー空間では、成年も未成年もあったものではないのが実情の昨今、子どもが事件をおこしたり、まきこまれたりすることは珍しくはない。

 「私もパソコンいじりは嫌いでない方だけど、それでも最近の子どものやることにはついていけないわ」なんてぼやいていたら、ある理系大学院生がこう言った。 「あたりまえですよ。僕らは、せいぜいプレステ・ネイティブ(彼の定義によると、生まれたときからソニーのプレーステーションが存在した、という意味らしい)、やつらはDSネイティブ。ワイヤレスで見知らぬ他人とつながることに、最初から何らの抵抗感もないんです」

 それならさしずめ私は、ファミコン世代というわけか(もちろん、「ネイティブ」ではない)。フォートラン77でちまちまプログラミングしていた私には、生まれたときからネットを通じて顔も見えない他人とやりとりするのが普通で育ったという感覚は、想像することも難しい。

 現実の社会の向こう側に広がるサイバー空間で、子ども達が何をしているのか、どのくらいの親が把握しているだろう。民法では監督者責任が問われるので、子どもがやったことでも、ケースによっては親が結構な賠償額を負わされる危険さえある。とはいえ、どれほど携帯電話やPCの管理を厳しくしようとも、親が思いもよらない方法で、子ども達は情報をやりとりして大人の目をいとも簡単にかいくぐってしまう。子どもとIT競争をやったとしても、専門家でもない限り、大人の負けは目に見えている。

 ある年配の弁護士が述懐した。「どんなに懸命に新しい知識を学んでも、到底若い弁護士にはおいつけない。僕たちは10年以上前の古い型のパソコンと一緒だよ。そのシステムをどんなにバージョンアップしたって限界がある。そもそも最新スペックで最新ソフトがプレインストールされたパソコンに勝てなくても当たり前だよ」

 いやはや、デジタルデバイドは、ほとんどジェネレーションギャップに同義になりつつある。

 そういうわけで、現実社会とサイバー空間の間をいとも簡単に行き来する新しい世代と、私たちが社会規範を共有していく難しさを、最近つくづく感じる。

 社会規範を作ったのは、大人世代の私たちで、その社会規範が想定しないところに、社会は広がり続け、子ども達はそこに生息し始めているのだ。

 しかも、古い世代の作った法律は、ソフトウェアとは違ってなかなかバージョンアップが難しいので問題だ。法がもたもたしている間に、新しい技術がもたらした現実はどんどん先行していく。P2P(ネットワーク上で対等な関係にあるパソコンどうしをつなげてデータを互いに送受信する方式)に関するあるシンポジウムでパネリストの一人がこのようなことを述べていた。

 「技術が法の網をかいくぐる、と言われるが、そうではないと思う。実際には、法の網のないところに技術があるのに、法は網の目をのばして技術をつかまえようとする」

 いわく、至言であろうと思う。

 技術が古い法を追い越した場面で、私たちはどうしたらいいのだろう。

 どんどん新しい法を作るのも一つだろう。でも、頻繁に更新されるソフトウェアのUp Date情報みたいに、法律が次々にできて、それを知っているのが前提とされる社会というのは、なんだか息苦しい。

 かといって、現行法の解釈を、靴の裏にくっついたチューイングガムみたいに、どこまでも引き延ばしておっかけていいものだろうか。それでは、何が違法で適法なのか、予測があまりに困難になりすぎる。

 ファミコン・ネイティブがもうすぐ30歳。若い世代が、現実社会とサイバー社会をまたにかけて、どんな法システムを作っていくのか。私たちでは、思いもよらない発想の転換に期待する。

中村多美子

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