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科学技術ジャーナリストはもっとツッコミを入れてほしい


 科学技術の研究者らと話をしていると、しばしば耳にする愚痴めいた話題がある。大事な研究なのになかなか社会の耳目が集まらない、報道してもらえない、科学技術ジャーナリストの報道が不正確で誤解を生む、などなどである。時折耳にする「科学技術ジャーナリスト」ってどういう人たちなのかしらと思っていたところ、日本科学技術ジャーナリスト会議(JASTJ)が独立行政法人科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センターと共に開いたミニフォーラム「研究と社会をつなぐ・・・科学技術と報道のあり方を探る  「医療」「科学と法」の取り組みから 」(7月13日)で、「科学と法」の問題提起をさせていただく機会を得た。


科学技術と報道についてのミニフォーラム=7月13日、JST東京本部別館で
 ミニフォーラムの開催にあたって、JASTJ武部俊一会長は、「今まさに時代が求めている取り組みを、研究開発に終わらせることなく、社会に役立てるためにはどうしたらよいか。科学技術と社会の間で役割を担う報道や科学コミュニケーションのあり方も含めて、参加者が一緒に議論し、考えていきたいと思います」とメッセージを寄せている。

 確かに、最先端科学技術研究は、専門的すぎて難しい。社会に有用な面があっても、専門知を社会の文脈をつなぐのは、簡単な話ではない。だからこそ、研究者は、懸命にその研究の「社会的意義」を説く。研究費の多くは競争的研究資金などの税金によってまかなわれていることを思えば、そのスポンサーである「社会」に研究の意義を理解してもらわないことには、研究費がいつ削減されるかわかったものではないという研究者側の危機意識もわからなくはない。

 かといって、ジャーナリストは、研究者の御用聞きではない。

 もっとよく勉強してくださいと、どっさり専門資料を提供する研究者の姿を目にするたび、私は、科学技術ジャーナリストと研究者との間に、専門家同士のコミュニケーションにありがちなミスマッチを感じる。

 研究者は、科学技術ジャーナリストという専門性をどのように理解しているのであろうか。

 参加していた様々なジャーナリストと話をする中で、そもそも、報道のプロフェッションとはなにか、ということについて、非常に重要な示唆をくださった方がいた。小出重幸氏(元読売新聞編集委員)である。小出氏は、報道のプロフェッショナリズムについて、「情報を<社会>というxyz座標のうえに、質量や加速度と共にプロットする」、 「そのニュースがどこから来てどこへ行くのか、相場観と共に示す」と述べる。

 科学技術ジャーナリストは、科学技術コミュニケーターとは異なる。彼らは、まず「ジャーナリスト」だ。集約された情報によって形成された「今この瞬間の」(こういう極めて短い時間軸は、まず研究者には伝わらないと思ってよい)社会空間の中において、科学技術研究がもたらすであろうインパクトを適切にプロットする。大事なのは、プロットだけにとどまらず、不確実な将来に向かって、その科学技術がどのように変容していくのかさえも、時に見極めようとしている。

 このような科学技術ジャーナリストにとって、アカデミズムの研究者との意見交換は、ストレスフルであろうと想像する。なぜなら、アカデミズムの研究者は、意見交換している相手の「専門性」をさほど意識することなく、知識勾配の上流から一方的に情報を流す傾向にあるからだ。

 聞き手としてのジャーナリストの問題意識を把握することなく、アカデミズムの研究者は、科学技術報道にしばしば「アカデミズム的正確性」を求めようとする。しかし、社会が求める科学技術の情報とは、ジャーナリストが情報の質量と加速度をプロットするために必要な程度の情報であり、それ以上ではないし、それ以下でもない。それ以上を与えようとする研究者は情報過多であろうし、それ以下の情報しかもたらせない研究者には社会リテラシーの涵養が必要だ。

 「研究と社会をつなぐ」ために、科学技術ジャーナリストの役割は非常に重要だ。その研究は必要なのか、もっとこういう研究が必要なのではないか、社会が求めている研究とは何か、どうしてそういう研究ができないのか、または、そんな研究をしてもいいのか、あなたの話はわかりにくくて要領を得ない、反対に、そこまで言い切っていいのか、などなど、もっともっと社会の目線から突っ込めないものか。

 不確実な科学技術の情報があふれかえる中、人々は、信頼すべき情報とは何かを模索している。しかし、アカデミズムの中から、社会的文脈において「聞きたいこと」に対する返事は容易に返ってこず、アカデミズム的正確性の中で積み上げられた情報から得たいものは選び出せない。

 だからこそ、科学技術ジャーナリズムは大事だ。単純な両論併記にとどまることなく、科学技術者集団の中で議論されていることの有り様と、それが社会にもたらすインパクトをスピーディに知らせて欲しい。そうでなくては、爆発的に普及する多様なソーシャルメディアの中で、その存在意義、すなわちプロフェッションを維持することは難しくなるのではないか。

(宣伝:RISTEX「科学技術と人間」領域では、「科学技術報道ハブとしてのサイエンス・メディアセンターの構築」プロジェクトが活動しています。乞うご期待。また、このプロジェクトから生まれた、科学技術の研究者とジャーナリストをつなぐ組織「(社)サイエンス・メディア・センター」にもご注目ください。)

中村多美子

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